NHKスペシャル「シリーズ老人漂流社会」の書籍化です。
独居老人ではなく、非正規社員の同居や親の介護のため正社員を退職して困窮する家族を紹介しています。
札幌近郊の巨大団地「もみじ台団地」では老親との同居が増えています。民生委員は定期的に独り暮らしの老人を訪ねますが、あるとき急に同居を始める息子や娘がいるというケースがでてきました。東京の多摩ニュータウン、高島平や光が丘でもありそうです。
ある住民は70才までタクシー運転手をしていましたが、転職が多く年金を納めていない会社もあったそうです。年金収入9万5千円/月、家賃2万円です。プラス生活保護で家賃免除、医療扶助を受けていました。息子は離婚して孫をこの祖父に預けていましたが、失業を機に父親と同居するようになりました。同居後不安定ながら非正規で働いたため生活保護を切られたといいます。
家賃免除もなくなりました。医療扶助も出ません。家賃というのは大きいものです。成人となった子供の同居は家賃という切実さを含まないため、金の使い方が小遣いから脱することありません。そのことが甘えを生み自立を妨げるという指摘は「パラサイト・シングルの時代」山田 昌弘 (著)などでもありました。
印象的だったのは年金が偶数月払いのため、奇数月末の家計が苦しいということです。金額の絶対額が少ないともいえるし、計画性が足りないともいえます。微妙なところです。
「子どもたちの面倒にはならないと思っていたけれど、まさか二人とも結婚しないで家にいるとは思わなかった。こんな形で一緒に暮らし続けるなんて‥」
30代の息子と娘と暮らす老夫婦の嘆きです。息子は札幌から出て10年ほど東京のIT会社で働きますがリストラに会い帰省しました。地元に戻って新聞配達の仕事に就きますが、賃金が安く独り暮らしはできません。娘はスーパーのパートですのでやはり低賃金です。
父親は元漁師ですが、漁師ではやっていけなくなり送電線工事の技術者となり60歳まで勤めました。60歳から68歳の現在までは同じ会社の工場で働いています。年金だけでは低賃金の子供たちとの暮らしがなりたたないので、できるだけ働き続けたいそうです。
母親はクリーニング店のパートなどをしていましたが、今は仕事がみつかりません。高齢なため仕事を見つけるのが難しいようです。
民生委員は家族がいると巡回の優先順位を下げるので、同居家族の困窮が伝わりにくいようです。
2015年1月、岩手県で90代の母親と介護の60代の長男の息子が同時に遺体で発見されたというニュースが地元紙で報道されました。家の中で長男は肝炎で死亡し、介護が受けられなくなった母親は息子の近くまで這っていく途中で息絶えていました。
長男は県内の工場で正社員とし勤務していましたが、母親の介護のため退社して実家の近くの畜産農家の牛舎で働きはじめました。
長男は明るい性格で子供の頃から慕われ、最近でも地域での交流をまめに行っていました。しかし、親しいからこそ経済的な困窮を話すことが出来なかったようです。
自分が肝炎で体調が悪いことを周りには告げず、病院にもいかなかったとのことです。
ケアマネージャーからも訪問介護を薦められましたが、費用負担ができず利用しなかったといいます。
いくつかのケースが紹介されていますが、子供がたよりにならないどころか独居老人より困窮することがあるようです。それも特別なことではなく、普通の家族が失業といった誰にも可能性がある出来事がきっかけで陥るのです。
しかもどのケースも真面目で律儀で優しい人たちです。
標準世帯を標準とする国の政策は見直す必要があるでしょう。
いまだに住宅ローン減税など高度経済成長期の政策を続けていますが、国の制度だからといってうっかり乗っかってしまうととんでもないことになります。
最近の20代は物欲がなくシェア経済が広がっていますが、賢い防衛反応といえるでしょう。